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2020年10月22日木曜日

出走馬抽選制度に対する国枝師の提言と、厩舎制度について。


 先日、大手競馬メディアに寄稿された1本の記事—

■“GI抽選対象”何が正解なのか 国枝調教師の金言/トレセン発秘話(netkeiba.com)

 このブログをご覧になる方はほとんどご存知かと思いますが、美浦・国枝栄調教師がG1における出走馬選定の「抽選」制度について苦言を呈したという話題です。

 デビュー3連勝中だったレイパパレ(栗東・高野友厩舎)が6分の4の抽選に漏れ、目標としていた秋華賞に出られなかったことは記憶に新しく、さらに同馬が秋華賞当日の10R・大原S(3勝クラス)で圧勝したことで、「もし出られていたら…」という思いを強くするファンも少なくなかったことでしょう。

 この話題を引き合いに国枝師は「G1くらいは完全にレーティングで決めても良いのでは?」という提言をしていますが、それは果たして「JRAのハンデキャッパーが優秀だから」という理由だけで言っているものなのかと疑問に思えてしまいます。

 そもそもレーティングはオープン以上の競走に対して付されるものであり、それを条件戦にまで適用しようものならJRAの負担は膨大になると見られます。まさか「G1に出ようとしている馬が出そうなレースだけレーティング付与します」とは言えないですし、仮にそのようなことがあれば「主催者が『強い馬がここに出ます』っていうレースを選別している」ことに繋がるわけですから、公正保持の観点から日本では難しいと言えるでしょう。

 加えて、秋華賞を例にとれば3着だったソフトフルートとレイパパレを比較して、どちらが強いかというのを戦前に推し量るのは難しかったと言えるでしょう。そもそも「強い馬」というのは絶対的なものではなく、走るコースや距離、馬場状態、ペース等様々な要因で力関係は変わるもの。それはアーモンドアイを管理している同師が一番よくわかっているはずなのですが…


 得てして、こういうリーディング上位調教師の「JRAへの苦言」はポジショントークを多分に含んでいるものです。

 少し前に栗東・矢作芳人調教師が「厩舎制度改革」と称してメリット制(成績に応じて馬房数・登録可能数を増減させる)の話をしていましたが、これも結局相対的に下位の厩舎のことは全く顧みられていないわけです。一般論として競争原理が市場活性化に有効だという理屈は理解できますが、競馬サークルにおける厩舎というのは1つの会社であると同時に馬主側にとってのライフラインですから、仮にガッツリ馬房数を減らされた下位厩舎が収入減を苦に廃業するようなことがあればサークル全体での受け入れ数の問題が発生します。

 「そもそも新馬の数が増えている」「親族や法人などの名義により実質的に大馬主の寡占となっているJRAの馬資源市場」等の問題はひとまず置いておいて、仮に上位の厩舎がこれら下位厩舎の馬房を吸い上げて商売をしたとしても、それはセーフティーネットにはなり得ないのです。彼らには、成績下位の厩舎だからこそ受け入れてくれる層の馬を受け入れるつもりがないからです。増やした馬房は大手の預託枠として再配分されるだけで、そうなると今度は成績中位の厩舎に良い馬が回らないという問題が発生し、ますます上位のパイが大きくなるだけです。

 加えて、そのようなことが実際に起こると、預託馬の行き場を無くす個人馬主も一定数出てくるようになるでしょう。人気厩舎は大手に埋め尽くされ、大学病院さながら知人の伝手などで紹介してもらえないと入れない…なんてことになっては「その筋の有力者」か「元々金持ちだった」人以外で将来的に馬主になろうという人はどんどん少なくなるでしょう。今のように売り上げが伸び続けている局面ではさほど問題になりませんが、何かの事情で売り上げが下がったり馬が売れなくなったりすると、特定少数勢力への依存が強い市場は途端に負のスパイラルに陥るリスクをはらみます。

 これも根っこは出走馬抽選の話と同じで、何を以て「良い厩舎」とするかはまちまちなわけです。矢作師や栗東の森秀行調教師のように、その馬のLTVを最大化するための出走戦略を採る調教師も居れば、「人を育てる」ために自厩舎所属騎手の騎乗を受け入れることを条件とする栗東の本田優調教師のような人もいます。あるいは、テソー□軍団のようにオーナーの言うことを文句言わずに受け入れる厩舎が良かったり、出走手当を稼ぐために連闘や芝中距離にローテを限定して使い続ける厩舎が良い、という考え方もあるでしょう。

 つまり、厩舎に何を求めるのかは馬主の間でも違いますし、むろん立場が違えば当然利害も異なります。そうした土壌にある「厩舎」という馬主にとっての共有財産を、勝ち星や出走数など定量的な実績による評価に偏重させるのは、少し違うのではないかと。


 話を馬に戻しますが、例えば「3戦3勝の馬が10戦3勝の馬より強い」という保証はありません。2002年に朝日杯FSを制したエイシンチャンプは、2歳12月にしてこれがキャリア9戦目。当日は8番人気と伏兵扱いでした。かたや1番人気は2戦2勝のサクラプレジデント。レースではゴール前でのサクラプレジデントの追撃を先行策から封じたエイシンチャンプ。同じ2勝馬でも人気は大きく離れていましたが、その通りにならないのがレースというものです。

 たらればをロマンとして語ることには必ずしも賛成しませんが、少なくとも、条件戦しか走っていない世代限定戦においてどのように「優劣」を付けるのか、その是非を含め自分はどうにも首をかしげてしまうものです。

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